第2章 振興の基本方向 1 基本的課題

(1) 時代潮流

 現在、我が国は歴史の分岐点に立ち、進むべき針路を模索しているところである。

 一方、国際社会は戦争と革命の20世紀を越え、平和の新世紀をとの願いにもかかわらず混迷の度を深めつつある。

 こうした内外の情勢や時代潮流は、将来の沖縄を取り巻く環境や県民の価値観に影響を与える。21世紀を展望し、沖縄の進むべき方向を明らかにしていくに当たり、これらの潮流を的確にとらえ、適切に対応していく必要がある。

 21世紀の社会経済の姿を展望することは容易ではないが、少子高齢化の急速な進行や地球規模で拡大する環境問題などは、住民の生活様式の見直しや意識改革を迫ることになる。

 少子高齢化の進行に伴い、子育ての負担を社会全体で担う動きや経験豊かな高齢者の社会参加が進むなど、これまでの世代や性別等による役割意識が変わっていく。人と人とをつなぐ新たなコミュニティ活動も重要となってくる。

 地球環境の保全と循環型資源利用を推進するための国際的枠組みが強化されつつあるが、豊かな自然に恵まれた島しょ県である沖縄は環境共生型社会のモデルになり得る。過度の利便性追求を反省し自然志向が高まる中、エコロジーとエコノミーの調和を図り、沖縄の豊かな環境を将来世代に引き継いでいかなければならない。

 いまや、人、物、情報等が、これまでとは比較にならない規模と速度で国境を越えていく。企業は、最適な活動の場を求めて国を選択し、個人レベルでも、世界を舞台に活動する人々が増えている。また、居ながらにして海外の情報や商品を手に入れることができ、世界の芸術文化及びスポーツなどを楽しむ機会が増えている。

 このような国際化の進展は、国民生活を豊かにする反面、国内産業の空洞化や輸入品との競合などの経済や文化をはじめ地域社会に大きな影響を及ぼすことも否定できない。このため、技術開発力の強化等により産業の国際競争力を高めるとともに、それぞれの地域が世界各地域との多面的な交流を促進して相互理解を深めていく必要がある。また、国際化でいま求められていることは対外的対応だけではなく、内なる国際化にどう取り組むかである。こうした観点からも沖縄の果たす役割、貢献は決して小さいものではない。

 また、高度情報化時代を展望したとき、沖縄の前に新たな発展可能性が広がってくる。情報化は、時間や距離の壁を取り払い、これまで不利と考えられてきた条件を転換していく大きな力となる。自然や文化の豊かさなど、沖縄の居住地としての魅力を発信することにより、企業や研究機関等の立地促進につながり、新たな産業の創出が期待できる。

 一方、地方分権が本格化する中、地方公共団体は、複雑、多様化する住民ニーズにいかに対応し、独創性を発揮するのか、まさに生き残りをかけた自己改革が求められている。

 自主性、主体性を発揮した意欲的な取組により、分権時代にふさわしい地域づくりを進めていく必要がある。

(2) 地域特性

 沖縄は、全国の中でも際立った地域特性を有しており、これらの特性はそれぞれに優位性と不利性の両面を持っている。

 これまでは、主に本土との格差是正をめざし沖縄の振興開発が進められてきたが、復帰後30年の実績や時代潮流を踏まえたとき、これからは、沖縄の持つ優位性を最大限に発揮するとともに不利性の克服を図っていくことが重要となる。

 沖縄は、亜熱帯・海洋性気候の下、年間を通して温暖で、貴重な動植物が生息・生育する緑豊かな島しょ県である。また、周辺海域を黒潮が北上し、サンゴ礁に囲まれた海岸線には白い砂浜が広がり、青い空と相まって世界有数の海岸景観を誇っている。

 この自然的特性が、観光・リゾート地としての最大の魅力となっているのをはじめ、特色ある農林水産業の振興や熱帯・亜熱帯及び海洋性に関連する学術研究の場としての活用など、多様な可能性を付与するものである。

 一方で、台風常襲地帯であることや特殊土壌及び特殊病害虫の存在等による農業分野への影響に加え、島しょ性がもたらす環境容量の小ささなど、県民生活や産業面に少なからず影響を及ぼしている。

 広大な海域に散在する沖縄の多くの島々は、それぞれ特有の風土や文化を有する個性ある地域圏を育むとともに、経済水域の確保等我が国の国土形成に大きな役割を果たしている。

 しかし、一方で、狭小な市場規模を形成することになり、基盤整備を進める上で非効率な側面をもたらしている。また、東京をはじめとする大都市からの遠隔性は、物流面の不利性につながり、産業振興の制約となっている。

 また、東京と同距離内にソウル、上海、台北、香港、マニラ等の主要都市が位置する地理的条件は、我が国とアジア・太平洋地域等との相互依存関係が一段と強まり、各種の交流が一層進む中、交通通信等のネットワーク構築等により、大いなる優位性へと転ずる可能性を示している。

 沖縄の歴史及び文化的特性は、我が国の中でも独特のものがある。かつて琉球王国として、中国、東南アジア諸国等との交易・交流を通じて形成された琉球文化に、戦後米国からの影響等も加わり、国際色豊かな文化、生活様式を育んできた。

 また、沖縄は、先の大戦において、か烈な戦禍を被り、戦後も27年間にわたり米軍の統治下に置かれた。このような歴史の歩みの中で、平和への強い思い入れと国際性豊かでホスピタリティに富む県民性を培ってきた。

 また、我が国の高度成長時代にその施政権の外に置かれ、社会資本の整備が後れるとともに、技術や資本の蓄積などが必ずしも十分には進まず、いまだぜい弱な経済構造となっている。

 社会的特性としては、大都市圏を除き全国的に人口が減少する傾向にある中で沖縄の人口増加率は高く、若年人口の割合も高いことがあげられる。さらに、100歳以上の高齢者の比率も高い長寿県であることも特徴である。なお、かつて海外雄飛の覇気を持って移民し、世界にネットを築いている約30万人の世界のウチナーンチュ(沖縄人)の存在も、沖縄の貴重な財産といえる。また、世界約150か国から5,000人近い研修生が、沖縄で学び、沖縄を体験して大きな絆を結んできた。

 一方、沖縄には我が国における米軍専用施設・区域の約75%が集中している現状がある。狭小な県土の中での高密度の米軍施設・区域の存在は、土地利用上大きな制約となっている上、水域及び空域の利用について制限があるなど、県民生活をはじめ沖縄の振興に様々な影響を及ぼしている。

(3) 基本的課題

 三次、30年にわたる沖縄振興開発計画に基づく総合的な施策推進の成果を踏まえ、次なる発展段階へと飛躍するため、時代に適合した目標を設定し、戦略的な施策を打ち出していく必要がある。

 第1次から第3次に至る沖縄振興開発計画においては、「本土との格差是正」と「自立的発展の基礎条件の整備」に取り組み、社会資本や生活環境の整備が積極的に進められた結果、各分野で本土との格差も次第に縮小するなど着実に成果を上げてきた。また、産業面においては観光・リゾート産業がリーディング産業としての地位を築くほか、新たに情報通信分野等で企業の立地が進みつつある。

 しかしながら、内外の厳しい経済環境のもと、期待された企業の立地は十分には進展せず、産業経済面での伸び悩みが見られるなど、自立的発展の基礎条件は、なお整備されたとは言い難い状況にある。

 一方、第3次沖縄振興開発計画で新たに加えられた「我が国経済社会及び文化の発展に寄与する特色ある地域としての整備」については、サミット首脳会合の成果等を得て、我が国の南の交流拠点を目指すという施策の方向性を明確にした。今後、世界最高水準の大学院大学等をはじめとする各種の教育研究機関の整備充実を図るなど拠点形成に向けた強力な取組が必要である。

 このように、沖縄が、いまだ十分とはいえない分野を引き続き整備するとともに、変革の時代にふさわしい新たな振興発展を図っていくためには、沖縄振興特別措置法に基づく諸制度を積極的に活用し、施策を効果的に推進していかなければならない。このため、以下の基本的課題の解決に向け総合的に取り組む必要がある。

 第1に、明日への活力を生み出し、自立を促進する産業の振興を図っていかなければならない。豊かな生活と雇用の安定を確保するため、経済の持続的発展を可能ならしめる成長の原動力を地域経済の中に組み込んでいく必要がある。国際的にも魅力ある立地環境を整備するとともに、産学官連携による研究、技術開発や人材育成への取組を充実し、新事業の創出や既存産業の高度化を図っていくことが求められる。

 第2に、国際的な交流拠点形成に向け、人、物、情報等の結節機能の育成・強化を図る必要がある。大交易時代の歴史や海外雄飛の覇気にあふれた先人たちにならい、アジア・太平洋地域における連携・交流が活発化する中、東アジアの中心に位置する沖縄は我が国の国際交流・協力の先陣を担うことが期待される。そのためには、人、物、情報等が行き交うアジア・太平洋地域の交流拠点形成に向け、国際水準の空港、港湾や情報通信基盤等の整備を進めるとともに、交流を担う国際的な人材の育成・確保を図っていくことが不可欠である。

 第3に、豊かな自然環境の中で、人々が自然と共生する社会を構築しなければならない。様々な恵みをもたらす豊かな自然を次代に引き継ぐとともに、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動や生活様式を見直し、環境への負荷を軽減することが求められている。また、近年の情報通信技術の飛躍的な進展は、経済や人々の生活をはじめ社会の隅々まで急速な変化をもたらしており、このような大きな動きに的確に対応し、新たな産業の創出や社会生活の利便性の向上を通して、県民がその恩恵を享受できるようにしていくことが必要である。また、県民が今後とも健康長寿を維持するとともに、少子高齢化が進んでも活力があり安心して暮らせる社会を構築する必要がある。さらに保健医療福祉の充実を図ることが重要であり、人々が支え合う社会の形成に向け、その条件整備を図ることも大切である。

 第4に、21世紀を担う人材の育成に果たす学校教育の役割は極めて大きく、教育改革に積極的に取り組みつつ、子供たちの能力と個性が発揮できる環境整備を進めていく必要がある。また、沖縄の社会経済の発展に不可欠な人材の育成・確保については、高等教育機関の設置・拡充、国際交流の推進等の施策を講じた結果、一定の成果は上がってきているものの、情報通信関連産業等の多くの分野で人材の不足が指摘されており、今後とも幅広い分野における人材の育成が重要である。知的資産の蓄積も重要であり、学術研究の総合的な振興を図る必要がある。県民が子供の頃から科学技術や芸術文化に親しむ環境を整え、科学技術等を担う人材を育成するとともに、先人たちの活動の成果である文化的所産の保存及び活用を図ることが重要である。

 第5に、社会資本の整備については、県民生活の向上に資するとともに、時代の要請に応じ選択の視点を変えながら、より効率的、効果的な整備を進めていかなければならない。今後、沖縄においては、人や物の移動・輸送の円滑化及び効率化の観点から、空港・港湾等の整備や道路網の整備等総合的な交通体系の改善整備が重要となる。また、水、エネルギーについては安定的供給を図る必要がある。社会資本の整備に当たっては、目的志向型の戦略的、重点的な整備という観点が求められる。

 第6に、県土の均衡ある発展が、引き続き大きな課題である。過疎化、高齢化により活力が低下する一方で、豊かな自然や固有の文化が残されている離島・過疎地域において、定住条件の一層の改善を図り、誇りの持てる自立的な地域づくりを進める必要がある。また、都市部においては、交通渋滞の緩和、修景緑化、バリアフリーの推進など、快適で活力ある都市空間の整備が求められる。

 第7に、沖縄の過重な基地負担の軽減や沖縄の振興を図る観点から、今後とも米軍施設・区域の整理・縮小に積極的に取り組む必要がある。そのためには、沖縄に関する特別行動委員会(SACO)最終報告に基づき、在沖米軍の部隊・装備等の移転を含む米軍施設・区域のさらなる整理・縮小を計画的、段階的に進めていくとともに、国際情勢の変化に対応して、在沖米軍の兵力構成等の軍事態勢につき、米国政府と協議していくことが重要である。また、駐留軍用地跡地の有効利用については、円滑かつ迅速な対応が求められており、広域的な視点に立って、県土構造の再編も視野に入れた幅広い検討が求められる。米軍施設・区域内の環境保全対策の充実については、米国政府と引き続き協議していく必要がある。さらに、戦後処理問題についても、引き続きその解決に向けて取り組む必要がある。